お、おう

星を継ぐもの (創元SF文庫)

星を継ぐもの (創元SF文庫)

 どこか深いところからゆっくりと浮かび上がるように、彼は意識を取り戻しかけていた。
 本能的に彼は意識の回復を嫌った。彼はあたかも何らかの意思の力によって、無意識と意識の隔りを埋める容赦ない時の流れを押し留め、極限の消耗の苦痛とはいっさい縁のない無窮の非存在に立ち帰ろうとするかのようであった。
 ハンマーさながら、胸郭を内側から突き破るばかりに躍り狂っていた心臓の鼓動は鎮まっていた。体中の毛穴から彼の精力と共に滝のように流れ出た汗はすっかり冷えきっていた。手足は鉛のように強張っていた。空気を求めて喘いでいた肺は再び穏やかな、規則的なリズムを取り戻していた。呼吸音は密閉されたヘルメットの中でやけに大きく耳を打った。


 「星を継ぐもの」 プロローグ より

………
「気を失っていた男が目覚めた」って、起こった出来事はただそれだけなのに!
恥ずかしながらこの歳までラノベすらろくに読んでこなかったせいか、
こういった密度の高い文章を読むと頭がくらくらしてくる。


なるほど、小説はこういう緻密な状況描写が命なのね。
自分でやろうと思っても語彙が貧困な私にはできない芸当だけどにゃー!