いまだにテレゴニーとか信じてる奴ってなんなの?馬鹿なの?

電波男

電波男

最近、というかちょっと前から非婚系のスレで流行ってるコピペに
「テレゴニー」というものがある。
このコピペが出回り始めた頃は、どうせすぐに詳しい人が来て
親切丁寧に解説してくれるだろう。と思ってたけど
なんかいくら待っても誰も来ないので、仕方がないから俺がやる。


どういうものか、と説明するよりは見てもらったほうが早いと思うので、
まずはそのコピペの全文。

過去に一度でも中田氏された女は、 現在の夫の遺伝子を100%全部子供へ受け継ぐことはできません。


【テレゴニー】
[英]telegony、[独]Telegonie
[生]感応遺伝・先夫遺伝・残存遺伝。女性の再婚後、その子供が先夫に似ているといわれること。


畜産業界では当たり前過ぎる常識であり、前に交わった雄の特徴が、のちに別の雄との間に生れた子にも遺伝するとされている。
血統書付きの犬の場合、一度でも雑種と掛け合わせた雌はそのあと二度と純血種の繁殖には適さない。


現在は某宗教系団体とその息の掛かった政党団体による政治的圧力により、根拠がないと否定されている。
先夫遺伝の研究は某学会でも禁忌扱いされており、圧力のためにネット上の文献も次々と削除されているのが現状である。
生命倫理にうるさい宗教系団体がこの件のもみ消しに必死になっている。


検索エンジンにも規制の魔の手が】
googleなどの検索エンジンからも広告スポンサーの意に背くような検索文字列は情報統制により
意図的に検索する事が出来ないようにフィルタリングが掛けてあり、都合の悪い情報は何度検索してもゼロ件表示となる。
中国Googleで「民主主義」関連を検索しても情報統制が効いている事から同様の結果となる。


政治的wwwwww圧wwww力wwwwww


いやー、完全にテンプレの陰謀論だよこれ。
ネットに情報がないこと自体が証拠ですー、か。
文献がないのは圧力により削除されたからですー、と。
書くほうも楽だろうなこりゃ。




まあ、確かにテレゴニーや感応遺伝で検索しても文献は見あたらない。
今ではこのコピペ関連の検索結果で埋まってるし、
コピペが流行りだした頃はそもそも検索結果自体が少なかった。
wikipediaも項目自体が作成されていない。


では、これは真実なのだろうか?
政治的圧力(笑)によって検索結果が削除されたのか?
なわきゃない。日本で文献がなければ英語で探せばいいだけだ。
せっかくスペルまで正確に記してくれてるわけだし。



ぐぐれば一発で出てくる英語版Wikipediaのテレゴニーの項目。
http://en.wikipedia.org/wiki/Telegony_%28pregnancy%29


ざっと見た感じだと要点は、

  • 19世紀後半まで強く信じられていた遺伝理論
  • 古くはギリシャ神話の時代から受け継がれてきた概念
  • 1890年に動物学者のAugust Weismannによって否定される

えーと、否定された部分を具体的に説明すると、
1820年にイギリスの第16代目モートン伯爵という貴族が
シマウマの牡馬と共にアラビアの栗毛の牝馬を飼育していて、
ある日、シマウマの代わりにオスの白馬を買い、
白馬のオスと栗毛のメスの2頭で飼育していたところ、
牝馬から産まれた子供の足には奇妙なシマがあった。
こりゃ伝説のテレゴニーの証明だ!と発表。
しばらくはその話がテレゴニーの存在を裏づけた根拠として広まっていた。


しかし、1890年のAugust Weismannによる追試実験の結果、
「いやいや、それただの祖父母からの隔世遺伝だから。」と否定されておしまい、というのが顛末らしい。
詳しくはこのあたりを参照。Lord Morton's mare




結局、テレゴニーは古代より語り継がれてきた単なる迷信。
劣性遺伝子というものの存在を知らなかった時代の古い遺伝学といってもいい。 (※2)
時代が進むにつれ、メンデルの法則を初めとする"まともな"遺伝学が発達すると共に
否定されて、消えていった。


(その後ナチスが発掘して非処女アーリア人は完全なアーリア人の子供を
 産むことはできない非国民だとか主張したりするけど、それはまた別の話。)


日本で文献が見当たらない理由は簡単。
100年前に否定された海外の迷信について文献を書く理由がないから。

当然、日本語での文献がないことはそれが真実であることの証明にはならない。
ていうか普通は逆だよね。確たる文献があるからこそ真実と証明できるわけで。
文献が無いこと自体が証拠だ、というのはUFO論者や超能力者とかの
トンデモさんが良く使う手だから。覚えておこう。
特に根拠が示せない時は、「私が根拠を示せないのは政治的圧力のせいだ!」と言っておけば、
なんとなく説得力があるような気になれるんだぜ。




いや実際俺も非婚派のはしくれだけどね。
たまに見に行くけどさ、非婚スレも。

あのスレには結婚がいかに愚かかという[http://kekkonnshitagaranai.blog91.fc2.com/:title=長いテンプレ]がつくのが恒例だけど、

こういうトンデモが一つまじってるだけで、テンプレ全体が胡散臭く見えてしまうのよ。
「水に結婚という文字を見せて凍らせたら汚い結晶が出来た」と同じレベルだものこれ。
こんなトンデモを持ってこなくても、結婚のマイナス面なんていくらでも書けるだろうに、
なぜこんなものを持ってくるのか。
あれか?陰謀か?ブライダル業界の工作員の仕業なのか?


Wikipediaの情報なんて信用できない!という人は、Wikipediaのページ末に
  情報元の書籍や論文が示されてるから、各自で詳しく調べたらいいと思うよ。



※2 追記
こっちにも書いといたほうがよさそうなんで。


モートン卿の馬(1820)からAugust Weismannの追試実験(1890)の間に、
メンデルによる、「メンデルの法則」という歴史的発見(1865)がありました。


詳しくは中学高校の生物の教科書でも読めば載ってると思うけど、
全ての生物は遺伝子を持ち、その中には優性遺伝子Aと劣性遺伝子aというものがあり、
それが組み合わさり産まれた子供がAAやAaの状態では劣性遺伝子aの特徴は出ないが、
AaとAaが合わさり、その孫がaaとなった時にのみ劣性遺伝子の特徴が現れる。


…という「隔世遺伝」という発見が、
まさにそのテレゴニーとされる歴代の事例が誤りであると証明する理論であったわけだ。


そりゃあ確かに、メンデルの法則を知らない時代に、
白犬と白犬のつがいから黒犬が産まれたりしたら、驚くのも無理ないだろう。
その事例になんとかして説明をつけようと頭をひねったすえに生み出されたのが、
テレゴニーという理論だったのではないかと思う。
(畜産業界で長く信じられてきた、という点からもこれは当たっていると思う。)


…ということが、上の記事にあった
「劣性遺伝子というものを知らなかった時代の古い遺伝学」という言葉に繋がるわけ。